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「十二歳の夏に」その2です
第二回アップしました。

くたびれた茶色い綿シャツにジーンズのこの男はダークと名乗った。
「どこか適当に座ってくれ。客なんて来たことねえから何にもねえけどな」
 家の中は雑然としていた。雑誌や、脱いだままの衣服がそこらじゅうに積まれている。部屋の中央に置かれたソファは背もたれが破れ、綿がはみ出していた。
「俺は年中、引っ越してるんでね。ここはアパートよりも家賃が安くてさ」
「知ってます。この家は借り手がいなくてずっと空き家になってたんですよ」
 ジャッキーはこの町のことを何でも知っている。それは美容師で噂好きな母親の影響だった。
 テリーはそっとソファに座ったが、それだけでも埃が舞い上がった。ジャッキーが埃を吸いこんでしまったのか、盛大にくしゃみをした。
 レイがテリー達の向かい側のソファに座ると、ダークは紙コップを三つ持ってきた。レイ達の中央で埃をはらうように意味もなく手を振り回してからテーブルにコップを置き、コーラを注ぎ始めた。
「まあ、それでも冷蔵庫だけは使えるからな、いつでも冷えたビールが飲める」
「ダークさん。俺、将来ハンターになりたいんです。ヴァンパイアを仕留めた時ってどんな感じですか?」
 テリーは身を乗り出し、目を輝かせながらダークの返事を待っている。
「どんな感じかって? まあ、複雑な心境だな。勝ったことに対する高揚感はあるが、同時に相手の命を奪った罪悪感も感じるんだ。ヴァンパイアが死んでいくのを楽しめるハンターももちろんいるが、俺は金を稼ぐためにやってるだけだからな」
「そうですか。俺なら平気だな。だって、奴らはモンスターだし」
「まあ、確かにそうだがな。でも、彼らは見た目は人間と同じだし、俺に出会うまでは普通の人間として暮らしてきたんだ。それを考えると、俺は割り切って考えることができなくてね」
 この人、本当は優しいんだな。レイはそう思ったが、やはり、彼のイメージとしてのヴァンパイアは人を襲い、血を啜る恐ろしいモンスターだった。
「あの、武器をみせてもらってもいいですか?」
 テリーの興味はすでに武器のほうへ向いていた。
「ああ、いいよ。見せるだけならな」
 ダークはテーブルの上に武器を並べて見せた。ショットガン、ニードルガン、そしてサバイバル・ナイフ。
「俺はこれだけしか使わねえ。ナイフは接近戦になった時に役に立つ」
「もう、何匹くらい殺ったんですか? ダークさん」
「さあな。いちいち数えちゃいねえから」
「へえ、そうなんだ。あの、これ、すげえかっこいいですね」
 テリーはそう言いながら、黒光りするショットガンに手を伸ばしていた。
「駄目だ! 玩具じゃねえんだぞ!」
 突然の怒鳴り声に、テリーはびくっと身体を震わせて手を引っ込めた。
「す、すみません」
「いいか。こいつは俺の命を守ってくれる大事な相棒だ。子供が面白半分に触ってみるもんじゃねえんだ」
 ダークの剣幕に驚いて、ジャッキーが立ち上がった。
「すみません。こいつ、遠慮ってものを知らなくって。それに単純に武器を持つことに憧れてるだけなんで、許してやってください」
「まあ、いい。俺はいつも、ヴァンパイア共と真剣勝負をしてるんだ。殺すか、殺されるか、選択肢は二つだけ。ハンターとはそういう仕事なんだ。よく覚えておけよ、テリー」
ダークは武器をテーブルから片づけ始めた。ジャッキーはゆっくりと腰を下ろした。テリーはダークの背中を睨むと、ぎゅっと唇を噛み締める。
「ああ、そうだ。ダークさん、あなたもヴァンパイアの牙とか集めてるんですか?」
 それは場の空気を和めようとジャッキーが発した言葉だった。
「牙だって? ああ、そういう連中もいるがな。俺は賞金を受け取るための牙以外は奪わないことにしている。せめて一本くらいは残しといてやんねえとな」
 テリーは立ち上がると、部屋のあちこちをウロウロし始め、くしゃくしゃになった毛布が掛ったベッドの枕元に置いてある紙の箱の中を覗きこんだ。
「うわ! これ、何ですか」
 ダークはテリーに近寄り、肩を掴んで押しのけた。
「触るな!」
「触ってないですよ! 聞いただけです!」
 ダークは返事もせずに箱を抱え上げると、しばらく中を覗いていたが、やがて、テーブルの上までそれを持ってきた。
 レイとジャッキーは恐る恐る中を覗きこんだ。箱の中には様々な装飾品が入っていた。腕時計、懐中時計、万年筆、ネックレス、そして指輪。レイはそれぞれの物が独特の匂いを放っているのに気付いた。それは、少し母の匂いに似ていた。
「これ……何ですか?」
「これか。これは俺が狩ったヴァンパイアの持ち物だよ、レイ」
「へえ、戦利品ってわけですか」
 テリーがちょっと軽蔑を含んだ口調で呟いた。
「いや……。違うな。これを見て、狩った時のことを思い出して満足するとか、そういうことじゃない。ヴァンパイアの死体は俺達ハンターが狩った後はゴミとして処理されてしまう。存在そのものが消えてしまう。持ち物も一緒にだ。俺は最初の頃は黙ってそれを見ていたが、ある時、それが耐えられなくなった。せめて俺だけでも存在を覚えておいてやりたいと思ってね。彼らの持ち物を一つ、預かることにしたんだ」
「預かるなんて……結局奪ってるじゃないか」
 テリーの口調がだんだん辛辣になってきた。だが、ダークはもう反論しようとはしなかった。
「まあ、そうだな。まったく、俺は何をやってるのかな」
 ダークは自嘲気味にそう呟くと、箱に手を突っ込んで銀の指輪を二つ取り出した。
「これはペアの指輪なんだ。もう五年くらい前かな。ある町で俺は男のヴァンパイアを狩ったんだが、牙を抜いているときに女が近付いてきてね。で、彼女はこう言ったんだよ。『あたしも殺してください』って」
 ダークは二つの指輪を手の中で転がしながら、ふっと溜息をついた。
「俺は断ったよ。いくらヴァンパイアでも無抵抗の女を殺すのはごめんだ。だがそう答えると、女は死に物狂いで俺に飛び掛かってきた。俺は首筋を噛みつかれそうになって、気が付いたらナイフで胸を突き刺していた。彼女は俺が杭を打とうとした時、微笑んで『ありがとう』って言ったんだよ。その時からだ。彼らの持ち物を……奪うことにしたのは」
 三人は黙ったままだった。何を言えばいいのか判らなかった。空気が重い。
「そろそろお暇します。ありがとうございました、ダークさん」
 ようやくジャッキーが呟くと、レイとテリーはほっと胸を撫で下ろした。

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